支部長

日本保全学会 東北・北海道支部の設立にあたって

支部長渡邉 豊

2020年度より支部長を拝命しております東北大学の渡邉 豊です。

平素、日本保全学会東北・北海道支部の活動にご理解とご協力を賜り、感謝申し上げます。

2021年度は新型コロナウィルスの影響が続く中での始まりとなりました。東北・北海道支部の皆さまには、平常時とは異なるご苦労を重ねておられるところと存じます。コロナウィルス禍は、世界的に社会の様相に大きな変化を与え、我々の生活にとって真にエッセンシャルな事物が何であるかを浮き彫りにしました。電力をはじめとしたエネルギー供給はその筆頭であり、コロナウィルス禍においても平常時と変わらぬ安定供給が電気事業者に課せられた使命です。電気事業者は、発電所員の感染防止、万一感染者が出た場合のオペレーションの準備など、細心の注意を払った上で業務を遂行されているところと拝察します。東北・北海道支部の行事・会議も、2020年度はすべてオンラインあるいは一部対面を採り入れたハイブリッドでの開催となり、対面開催が不可欠の行事については延期あるいは中止とせざるを得ませんでした。そのような中でも各発電所・事業所では更なる安全性向上への不断の取り組みが続けられ、東北電力女川原子力発電所や日本原燃再処理工場をはじめとして着実に準備が進んでいるところと承知しております。

突然、瞬く間に世界を覆った新型コロナウィルス禍によって、『リスクとの共生』が現代社会の本質的なテーマであることを改めて想起させられました。リスクとの共生には、潜在するハザードとその顕在化シナリオを網羅する等、リスクを可能な限り正確に認識し、リスクの合理的な最小化を図り、その上で受容するか否か(他の選択肢を模索するか)を決断していく、という一連の行為が必要です。保全学は、リスク認識とリスク最小化の基盤を支える極めて重要な学術です。平常時には粛々とプラントパフォーマンスを支え、緊急時にはリスクマネジメントの要になる技術として、改めてその意義を感じているところです。

そして、東日本大震災と福島第一原子力発電所(1F)の事故から10年が経ちました。東北大学の震災10年事業の一環として、本学工学研究科の修士課程を修了して東京電力HD福島第一廃炉推進カンパニーに勤務する若い技術者とオンライン対談をする機会を得ました。事故の時、彼は福島県出身の東北大学の1年生、自分の出身地の近くで起きた発電所での爆発に驚き、そもそも原子力発電所が自分の出身県にあることを明確に意識したのはそのときが初めてだったそうです。宇宙開発分野に憧れて工学部に入学し、原子力にはまったく興味の無かった大学生が、事故をきっかけにして原子力工学に関心を持ち、1F事故について当事者の立場から知りたい、そして廃炉に直接携わりたいと東京電力に就職したわけです。現在は、原子炉建屋内調査を計画・実施・評価する仕事に取り組んでいます。事故時に原子力について関心も知識もまったく無かった10代の若者が、今は1F廃炉事業の中核で重要な役目を担っている。私にとって、この対談は10年という歳月を思い知る機会になりました。今の学生諸君にとって原子力は決して人気の分野ではありませんが、1F事故をきっかけにして原子力を志す若者もいます。心強い限りです。我が国がカーボンニュートラル実現を約束している2050年まで約30年、彼らがイニシアティブをとって日本の約束を実現する役割を果たしてくれます。私の世代には、彼らが原子力技術を作り直していく下支えをする責任があると感じています。

コロナウィルス禍を克服するにはもうしばらく時間がかかるようですが、再び学会行事や各種会合で東北・北海道支部の皆さまに対面にてお目にかかれる日を楽しみにしております。東北・北海道支部の活動に引き続きご協力下さいますようお願い申し上げます。

2021年 4月