福島事故を受けて新しく原子力規制委員会が設置され、丸12 年が過ぎ、原子力発電を取り巻く環境状況はようやく変わりつつあります。ウクライナ戦争やAI の普及による安定で安価な電力への需要により、原子力に対する期待が高まりつつある状況です。エネルギー安全保障と脱炭素、社会の進歩の鼎立を目指して、COP28 では2050 年までに原子力発電容量を3 倍にする旨の共同宣言を発表しました。国内では12 基のPWRの再稼働に続き、BWR は昨年、女川と島根の2 機がようやく再稼働しました。現在、PWR2 基、BWR 6 基の審査も進んでいます。さらに次世代炉の開発や既存炉の運転延長に向けた制度整備が進行し、革新炉などの将来への布石も進展しています。また福島での廃炉・廃棄物処理・安全性確保の課題も少しずつ解決され、原子力は「復活」段階を経て「進化」の段階に入りつつあり、持続可能なエネルギーとしての役割が再び評価されようとしています。
わが国の原子力の平和利用は、推進する原子力委員会と推進時の安全を確保する役割の原子力規制委員会の両輪で進められる制度を採用しています。しかし組織が整備されて12 年経った現在でも、再稼働審査が完了できた発電所は15 基で、1 年に1 基余の審査完了という牛歩ぶりです。その一つの典型例が、“原電敦賀第2発電所の断層審査”です。「断層審査」において判断が難しく、規制委員会は許認可の判断を回避している状況となっています。
わが国は、地震国です。毎年、数多くの地震、断層変位の発生に見舞われています。そこで、これらの地震や断層変位の発生による原子力発電所の安全の確保は極めて重要な課題となっています。一方、地震のメカニズムは科学的には未解明な領域が多く、発生や規模の判断が難しい現象です。1970 年以降、わが国には原子力発電所が数多く建設され、稼働中に大小の地震を経験してきました。1980 年代からは地震の予知をめざした様々な活動も実施されてきました。その後、中越沖(2007 年)や宮城県沖(2005 年)で大きな地震が発生しましたが、対策が功を奏して大きな被害にはあっていません。原発の地震災害防御率は100% という高成績であります。現在は、重要な大地震対策として東海~宮崎領域における南海トラフ巨大地震が注目されています。多数の地震が発生して民間に大きな被害が出るに伴い、地震による原発事故の懸念が大きく取り沙汰され、原子力発電所ではさらなる規制が強化されています。そんな中で、2011 年に東日本大震災が発生しました。地震による直接の原子炉施設の損壊はありませんでした。しかしこの地震に伴い発生した巨大津波により発電所施設が浸水して原子力発電所の重要部分を損傷する過酷事故を引き起こしてしまいました。この福島事故は地震そのものではなく随伴する津波が原因であり、「二千年に一回の巨大津波がおきたのだから事故も仕方がない」と、当時のサルコジ・フランス大統領が感想を述べています。残念ながら、地震の発生やそれによる被害、特に津波についての予測を正確に行うことは難しいのが現状です。技術開発を進めながら、可能な限り正確な地震の予測と災害の評価を行い、対策することが求められます。
このように原子力発電所は耐震性と耐津波の適切な評価と対策を行わなければなりません。しかし、原子力規制委員会は、研究開発を進める学協会や研究機関、先端工業を担う産業界との情報交換を避け、ただ専ら被規制者である事業者の説明を聞く方法のみで、決定論に拠って審査を進めているのが現状です。一方、地震現象の解明はまだまだ発展の途上にあり、未解明な部分の多い現象は、確率論(リスク)に基づいて判断し、適切に対処するしか他に方法はありません。規制審査は原子力発電所の運転時の安全性の確保のためであり、安心とは切り分けて基準に基づく判断ができる知識と技量が求められます。今回の「敦賀断層問題」は、規制のあり方について大きな議論を投げかけていると考えます。