会 長 挨 拶
会長 宮 健三(平成22年8月)
日本保全学会を設立する動機は、「保全学」という新しい学術の構築とその原子力発電設備への適用の2点であった。
それまでは「保全」という行為を体系化するなどという発想は他に存在しなかったと言ってよい。設立してから7年が経過した。その間、「学術講演会」、「学会誌発行」、「オンライン洋雑誌‐EJAMの発行」、分科会活動など多くの学術活動を展開してきた。その結果、「保全学」が有するべき構造が明らかにされてきた。主要な知見を挙げれば、1)保全学には物理学などに見られる保全法則が存在すること、2)その導出の考え方の基盤となる保全三原則が設定されること、3)これらの原理を保全現象に適用して原子炉の「安全論理」に相当する「保全論理」が構築されたこと、などがある。これらの知見を原子力発電設備へ適用した例は少なく今でも開発中であるが、1)保全業務最適化に関する数理的手法、2)信頼性最大‐コスト最小と言う条件を汎関数に落としこんで保全最適化を理論的に取り扱う手法、3)プロログに基づいた工事計画最適化手法の開発、などの萌芽的手法を挙げることができる。このような研究開発を通して、現場の保全行為の学術的意義づけが明確化されたことは、成果としてよい。
また学術講演会が毎年開催されている結果、従来保全という業務が低級なものとして捉えられていたものを原子炉安全確保に欠かせないものとして再認識されたこと、保全技術者にとって有益な成果を共通に発表できる場を確立したこと、原子力産業界で広く実施されている保全業務内容を一同に垣間見ることができるようになったこと、などがある。年4回定期的に発刊されている学会誌についても同様である。 さらに日本の保全技術を世界に知ってもらうことを主たる目的の一つとして刊行し始めたEJAMは1歳を過ぎたばかりであるが、順調に発展しているところである。
このように、保全学会は設立趣旨にうたったコンテンツを着実に実行しながら成果を挙げている。 日本保全学会の次の課題は、国際活動の展開である。その内容は、1)保全学の国際化、2)日本の保全技術の国際化、3)保全分野における保全フォーラムの立ち上げ、にある。これらを追及する時の重要な視点は、伝統的な考え方や慣習にとらわれないことである。保全と言う観点からは、米国の動向や技術は伝統的に重要でそこを軽視することなどできない。しかしながら、中国やインドといった開発途上国の原発開発の勢いは驚嘆すべきものがあり、そこに無関心でいてよいはずはない。積極的に協力したり、関与したりすべきである。インドについても同様である。中国との協力は現在模索しながら関係構築を図りつつある。
最後に、学会としての基本的な役割をしっかり認識し、伝統的なやり方にとらわれないで、従来とは違った社会的貢献ができれば学会設立の当初目的は達成されたことになることを記して挨拶としたい。
以上
