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「保全教養講座」保全のリテラシー ―原子力発電所の保全を例としてー

発 行:2007年9月
発行所:日本保全学会
定 価:1,050円

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第1章 はじめに

近年、社会全体の考え方や産業構造の進むべき方向が前世紀型の開発・使い捨て中心の時代から地球環境の保全を念頭に調和と健全成長の時代へ転換しつつあり、持続循環型の社会が志向されています。このような中で、産業界では適切に部品交換や手入れ等を実施し生産設備を長期間使用して生産活動を継続しようとする考え方が強くなってきています。地球環境などに配慮しながら設備の安全性・信頼性を保ちつつ、合理的に経済性を追求する「保全」中心の取り組みです。

我々が保全の対象とする原子力プラントや化学プラントのような巨大プラントは、単純なシステムではなく、いくつかのサブシステムによって構成され、サブシステムは多数の機器や装置から成り、さらにそれぞれの機器や装置は数多くの部品等から構成されています。このような複雑で階層的な構造を持つ全体システムの保全を考える場合、それを構成しているサブシステム等がそれぞれの役割を果たし、システム全体としての信頼性を長期間に亘って確保するため、保全を如何に適切に実施するか、が求められています。実際の保全現場では、機器の故障によるプラントの停止を恐れるあまり、必要以上に短い時間間隔で広範な検査や機器の取替等を行うなど、過分の予防保全を実施している場合があるかもしれません。もしこれがより適切な時期と必要な箇所を特定して検査や部品交換等ができるようになれば、当該プラントを長期に亘って安定して活用でき、結果として経済性の高い運転を実現することが期待できます。しかし、経験や裁量に基づく従来の保全では、大規模化、複雑化したプラントにおける全ての故障を予見することは容易ではありません。これらの最適化を行っていくには合理的かつ定量的な指針を与えてくれる保全の数理が必要です。たとえば、機器や部品の故障と保全との関係に確率論の考え方を導入し、故障とその影響をリスクとして取り扱えるようにすれば、プラントの安全性や運転継続性に対して重要な機器を明確にでき、それらの機器を重点として検査や部品交換等の予防保全を適切な時期に実施できるようになることが期待されます。また、そこに検査技術などの新しい技術を採用したり研究開発への重点投資を行ったりする根拠を与えることになります。このような数理に基づく合理的な保全の検討が実現されれば、故障によるプラント停止頻度をより低くできるなど、経済的な価値を生み出すばかりでなく、現代社会の中に受け入れられていく基盤をつくることにもなります。

保全は社会や経済と密接に結びついています。故障や損傷、事故などのリスクとの関係から資源(人、物、金)をどのように投入すれば、全体として効果的な保全が可能であるかといった保全のあり方を、数理的、学術的手法を用いて論じることが重要となってきています。単に技術的な分野のみならず社会的な面も含めて保全を考えてみることは、未知の分野でもあり、非常に興味深い対象です。本書では、学術的にも魅力のある「保全」の世界について多くの人々が関心を持ち、近い将来、前述のような数理的、学術的考え方のできる人材が数多く輩出するようになることを期待して、保全に関する基本的考え方や基礎について解説します。

平成19年8月
編集委員会 保全講座タスクチーム

目次

第2章「保全」とはどんなこと

2.1 一般製品の保全と大型プラントの保全
2.1.1 一般製品の保全
2.1.2 大型プラントの保全
2.1.3 原子力発電プラントの保全と安全性
2.1.4 循環型社会と保全
2.2 保全活動の本質
2.2.1 構成品の劣化と保全
2.2.2 信頼性の維持と保全
2.2.3 適切な保全活動
2.2.4 定期分解点検の歴史
2.3 原子力プラントの保全の特徴
2.3.1 原子力発電プラントの法的な規制
2.3.2 原子力プラント保全の経緯
2.3.3 定検時に集中する保全作業
2.4 保全の対象
2.4.1 大型プラントの構成品
2.4.2 保全対象機器と重点思考
2.4.3 安全系と保全計画
2.4.4 生産上の重要度と保全計画
2.5 保全の3要素
2.5.1 保全のフローとスパイラルアップ
2.5.2 機器の「状態把握」
2.5.3 把握した結果の「分析・評価」
2.5.4 補修等の「対応措置」
2.5.5 保全3要素の一部省略
2.6 保全の体制と人間系
2.7 原子力プラント保全と社会
2.8 まとめ

第3章 原子力発電所の保全

3.1 原子力発電所の保全の目的
3.2 原子力発電所の安全確保の仕組みと構成設備・機器
3.3 原子力発電所の設計、建設、運転と規制
3.4 具体的な保全活動
3.5 保全活動の実績
3.6 保全における今後の主な取組み

第4章 『保全のマネジメント』

4.1 原子力発電の経済性
4.2 計画段階における保全マネジメント
4.3 実施段階における保全マネジメント
4.4 まとめ

第5章 保全を数理的に考える

5.1 課題の設定と解決の基盤
5.2 課題解決の基本的方法論
5.2.1 信頼性の基本概念を用いた保全とその評価法
5.2.2 プラントと機械設備の信頼度、保全度とアベイラビリティ
5.2.3 故障と故障時間
5.2.4 故障率関数と故障時間密度関数の代表例
5.2.5 複数の機器からなるシステムの信頼度
5.2.6 保全を伴うシステムのアベイラビリティ
5.2.7 システムのリスクと保全方策の適正化
5.2.8 保全のための数理と材料の劣化等にかかわる計算科学の発展性

第6章 保全を知識工学的に考える

6.1 保全の課題解決のための知識マネジメントの基本的枠組み
6.1.1 技術情報と知識
6.1.2 データベースとデータマイニング
6.1.3品質管理と保全に関わる規格・基準
6.2 保全技術開発の戦略
6.2.1 軽水炉高経年化対応技術戦略マップの構築
6.2.2 技術戦略マップとそのローリング
6.3 まとめ:保全のリテラシーと保全学

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